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和歌山地方裁判所 昭和42年(ワ)383号 判決 1969年3月20日

原告

山口直之

被告

武元建亜

ほか一名

主文

一、被告らは連帯して原告山口直之に対し金三二万円、原告山口俊秀に対し金二四万四、五六〇円及びこれらに対する昭和四二年一二月二九日より完済するまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二、原告らその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。

四、この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告ら側。「被告らは連帯して原告山口直之に対し金一一一万六、一〇〇円、原告山口俊秀に対し金八四万九、九〇〇円及びこれらに対する昭和四二年一二月二九日から完済するまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

被告ら側。「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二、請求原因

(一)  事故の発生

昭和四二年五月二八日午前一〇時五〇分頃、和歌山市岩橋二六七番地先を東西に通じる県道とこれより分岐して北方へ通じる道路との三叉路交差点に於て、県道を西から東に向つて進行中の被告武元建亜運転の大型貨物自動車(以下被告車という)と、右北方道路を北から南へ向い、県道へ進出しようとした原告山口直之運転の自転車(以下単に自転車という)が衝突し、原告直之は路上に転倒して右下腿骨開放性骨折の傷を負つた。

(二)  被告らの責任

(1)  被告武元の責任

被告武元は、被告車を運転して本件交差点にさしかかるに際し、前記北方道路より県道へ進入してくる車輛の有無に注意し、出会いがしらの衝突が生じないよう、危険を感ずれば直ちに停車し得るように、減速徐行すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と同一速度で進行を続けたために原告の自転車と衝突するに至つたものであるから、民法第七〇九条により、原告らの蒙つた後記損害を賠償する義務がある。

(2)  被告会社の責任

被告会社は被告車の所有者であり、被告武元はその従業員として自動車運転の業務に従事する者である。そして本件事故は、被告武元がその業務の執行として被告車を運行中に同人の前記過失により惹起されたものであるから、被告会社は運行供用者としての責任を定める自賠法第三条及び使用者責任を定める民法第七一五条のいずれによつても、原告らの損害を賠償する義務がある。

(三)  損害

(イ)  原告直之の慰藉料 金一一一万六、一〇〇円

原告直之は前記受傷により事故当日の昭和四二年五月二八日より同年一〇月三〇日まで入院し、昭和四三年二月現在尚通院加療を続けているが、右足に醜い傷痕が残つているため今後更に二ケ月間の入院を要する整形手術を施さねばならない有様であり、しかも後遺症の恐れも多分にある。又右治療のために数ケ月間に亘つて休学を余儀なくされたため学業が遅れ更に、醜い傷痕が残ることにより将来の結婚、就職等に際してもひけ目を感じなければならない。かように本件事故により蒙つた原告直之の肉体的、精神的苦痛は甚大であり、これを慰藉するものとしては金一五〇万円が相当であるが、そのうちの金一一一万六、一〇〇円を請求する。

(ロ)  原告俊秀の損害 合計金八四万九、九〇〇円

(1) 休業補償 金一六万円

原告俊秀は住居地に於て妻富子に菓子、学用品、家庭用金物類などの小売販売業を営ませ、本件事故当時一日平均少くとも金二、〇〇〇円の純益を得ていたものであるが、子供である原告直之の入院期間中(昭和四二年五月二八日より同年一〇月三〇日までの一五六日間)富子はその付添看護に当つていたため全く営業できず、又退院後の八〇日間も通院などのために半日休業を余儀なくされた。従つて右一五六日の全休期間中の損害は金三一万二、〇〇〇円、八〇日間の半日休業の損害は金八万円、合計金三九万二、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したのであるが、このうちの金一六万円を請求する。

(2) 整形手術のための医療費 金二八万三、九〇〇円

前記のように原告直之は、近い将来に於て更に傷痕の整形手術を受けねばならないが、これに要する入院、手術等の費用の概算として病院より告げられている額は金二八万三、九〇〇円で、右金額を下ることはあるまいとのことであつて、その負担は当然父親である原告俊秀に於てなさねばならないものである。

(3) 付添看護費用 金一五万六、〇〇〇円

原告の前記入院期間中は、その患部及び傷の程度から見ても、又年少の児童であつたことからも付添看護を必要としたところ、訴外岡田小梅にこれを依頼し、原告俊秀より右岡田に対し右金額の報酬を支払つた。

(4) 弁護士費用 金二五万円

本件損害賠償金請求のため原告俊秀は弁護士岡崎赫生に対し本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金として金一〇万円を既に支払い、旦つ本件判決言渡の後に報酬として金一五万円を支払う約定をしている。

以上により、被告らに対し、原告直之は前記(三)(イ)の金一一一万六、一〇〇円、原告俊秀については前記(三)(ロ)の合計金八四万九、九〇〇円及びこれらに対する本件事故発生の後であり、本件訴状送達の日の翌日である昭和四二年一二月二九日より完済するまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告らの答弁

請求原因第一項の事実は認める。

同第二項(1)の事実は否認する。後記のとおり、本件事故は原告直之の一方的過失に基因するものである。

同項(2)の事実は認める。

同第三項の各事実は不知。尚、被告等は道義上、原告直之の受傷に同情し、本件請求外であるが、治療費、見舞金等の名目で合計金六四万九、四四八円を支出している。

第四、被告らの抗弁

(一)  被告会社の抗弁。

(1)  被告武元は、被告車を運転して本件交差点にさしかかつた際、北方道路に対しても充分に注意を払い、且つ徐行しつつ殆んど右交差点を通過せんとした時、原告の自転車がとび出してきて被告車の左後輪のやや前方に衝突したのであつて、被告武元に過失はない。かように細心の注意を払いつつ徐行運転していたからこそ、転倒した原告直之の足を轢過することなく、直ちに停止し得たのである。

(2)  自転車が進行してきた北方道路は被告車の進路である県道より道幅狭く県道上の見通しも悪いのであるから、原告直之としては、交差点手前で一旦停止し、左右の安全を確認したうえで県道へ進入すべきであるのに、これを怠り、漫然と県道に進入してきたため被告車に衝突したのであるから、本件事故は専ら右原告直之の過失に基くものである。

(3)  被告会社は運転手の被告武元を選任するについて相当の注意を払い、日常の運転についても、常々注意を与え監督に怠りがなかつた。そして被告車には機能の障害又は構造上の欠陥はなかつた。従つて被告会社は自賠法第三条但書、民法第七一五条第一項但書によつて、いづれも免責されている。

(二)  過失相殺

仮りに被告らに本件事故発生につき責任があるとしても、原告直之に於ても前記の如き重大な過失があるから、損害額算定上考慮さるべきである。

第五、右抗弁に対する原告らの答弁

被告らの抗弁事実は全て否認する。

第六、証拠〔略〕

理由

一、事故の発生

原告主張の日時、場所に於て主張の如く原告直之運転の自転車と被告武元運転の大型貨物自動車が衝突し、路上に転倒した原告直之が右下腿骨開放性骨折の傷を負つたことは当事者間に争いがない。

二、被告らの責任

(イ)  被告武元の責任

〔証拠略〕を総合すると、

(1)  本件事故現場は農家が散在する郊外の半住宅地を東西に走る県道(幅員四・二メートル、アスファルト舗装)と、これより直角に北方に分岐する道路(幅員二・六メートル、非舗装)との三叉路で信号機も設置されていない交差点であるが、交差点西端より西方五メートル程の地点から西方の県道は道路南側の幅一・七メートル程の部分が道路中央より南側端に向つてやや低く傾斜しており、その南端部分では道路中央部より約五センチメートル低くなつていること。有交差点の北西角には人家があり北方道路に沿つて北へ約五メートル、県道に沿つて西へ約四メートル、高さ一・六メートルの板塀が設置されているので、交差点より西方の県道上から北方道路上の見透し及びその逆の場合の見透しはいずれも困難であること。本件現場付近の交通量は平素から少く、本件事故当時も閑散であつたこと。

(2)  被告武元は原乳約四トン入りのタンクを積載した被告車(車幅二・三八メートル、車長七・二〇メートル)を運転して県道を時速二五キロないし三〇キロの速度で西から東へ向い、前記のように道路の南側が傾斜しているため危険を慮つて道路北側端に寄つて走行してきたが、右傾斜部分が平坦になる地点でハンドルを右に切り道路中央へ進路を戻そうとした時、被告車進路前方左よりガチャガチャという自転車の進行するような音が聞えたので、被告武元は右交差点北方道路から県道へ向つて進行してくるものがあるかも知れないと直感したのであるが、さして意に介さず、被告車の運転音が相当大きいから相手の方で被告車の接近に気付き、用心するであろうと思い、ブレーキに軽く足をかけただけで警笛も鳴らさず、そのままの速度でハンドルをやや右に切り、交差点に進入しようとしたが、その瞬間北方道路から県道へ交差点北端で一旦停止をせずそのまま進出してきた原告直之の自転車を至近距離で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、自転車と被告車左側中央部付近とが衝突し、被告車の左側後輪によつて原告直之の右足が轢過されたこと。

(3)  被告武元は自動車を運転して本件現場付近を常時運行しており、この交差点があることその他道路状況を熟知していたこと。

などの事実が認められる。被告武元本人尋問の結果中に、被告車の構造上運転席からの視野が極度に狭いために、本件交差点に進入した時にも原告直之を発見し得なかつたかの如き趣旨の供述が存するが、さような構造上の短所のある点は別として、原告の姿を衝突する迄発見し得なかつたとの部分は直ちに信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

又被告らは、本件事故は、被告車が徐行しつつ殆んど交差点を通過し去ろうとしている際に、自転車がとび出してきて、被告車の左側後輪のやや前の付近に衝突したために起つたのであると言うが、〔証拠略〕による被告武元の現地指示に基づく彼我の衝突位置を基準とし、被告車及び自転車の進行速度を比較すれば(被告車は時速二五ないし三〇キロで、秒速は七ないし八メートル余であり、自転車の速度は明らかではないが、小学二年の児童が小児用の自転車に乗つていたのであるから、被告車の速度の三分の一にも及ぶまい)、正確を期し得ないが、彼我共に交差点の手前で互いに相手を発見し得たであろう位置は、交差点の中心を基準として被告車の方がより西方に遠ざかつた所に在つたことが推論し得る。従つて被告らの右主張は当らず、いわゆる出会がしらの衝突と見るべきである。

以上の事実よりすると、原告直之の軽そつさは勿論責めらるべきであるが、幅員の広い県道が優先道路であるとは言え、県道上より北方路上の見透しがきかない交差点であり且つ被告武元はその手前に於て自転車が進行してくるような音を聞いているのであるから、万が一にも出会いがしらの衝突が生ずることのないように注意し、危険を感ずれば直ちに停止し得る程度にまで減速し、且つ警笛を鳴らして相手に注意を促すという措置を講じておれば、原告直之が一旦停止を怠つて交差点に進入してきても、これとの衝突は避け得たであろう。本件事故発生の原因は被告武元がかような注意義務を怠り、漫然と時速二五キロないし三〇キロの速度のまま交差点に進入したことにあることも否定し得ない。

従つて被告武元は不法行為者として民法第七〇九条により原告らの蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(ロ)  被告会社の責任

被告会社が被告車を所有していること及びその従業員として被告会社の自動車運転業務に従事していた被告武元が、その業務の執行のため被告車を運行中に本件事故を惹起したのであることは、いずれも当事者間に争いがない。そして本件事故の発生につき被告武元に過失あることも既に認定したとおりである。

そうすると被告会社は、被告車の運行供用者としては自賠法第三条の、被告武元の使用者としては民法第七一五条の、いずれによつても原告らの蒙つた損害を賠償する義務がある。

被告会社は自賠法第三条但書の免責の抗弁をするが、右の如く被告武元に過失の存する以上この抗弁は失当である。而して民法第七一五条第一項但書の免責の抗弁について考察するに(原告主張の損害のうち原告俊秀の休業による損失は自賠法第三条に含まれる損害とは解せられず、民法第七一五条によるべきものと考える)、〔証拠略〕によれば、被告会社は被告武元を採用するに当つて身元保証人二名を徴し、運転の実技並びに運転上必要な知識をテストした上で合格基準に達するものと認めて採用し、毎朝の始業に当つては営業部長が個々の運転手に適宜の注意を与え、全車輛にタコメーターを装備し、新聞紙上に報ぜられる交通事故の例を引くなどして運行に注意を与えていたことが認められる。

しかしながら右程度を以ては選任、監督に相当の注意を払つたものとして免責されるに値しない。〔証拠略〕によれば、同被告は昭和四一年にスピード違反で罰金五〇〇〇円に処せられているが、被告会社に於てこの事実を掌握していないことが窺われ、単に概括的に或は形式上注意を与えることがあつても、それを以て足るものとは言えない。被告会社の右免責の抗弁も採用し得ない。

三、損害

(イ)  原告直之の慰藉料

〔証拠略〕を総合すると、原告直之は前記負傷により事故当日の昭和四二年五月二八日より同年一〇月三〇日までの五ケ月間入院し、退院後も引き続き通院加療を続けたが、患部のケロイド化、右足関節瘢痕拘縮が醜い傷痕として残り、その整形手術のため昭和四三年八月三日和歌山市内の東和病院へ再び入院することになり、同年九月二六日現在既に二回の植皮手術を終つたが、なお後一回の手術を要すること、右三回の手術を完了しても多少傷痕が見良くなる程度で完全に消えることはなく、又跛行も完全に治る望みがないこと、本件事故当時原告直之は小学二年生(八才一ケ月)で学業成績は中程度の運動好きの健康な男児であつたが、本件事故による長期の休学で若干学力の遅れが認められること、右足の運動が不自由なため好きだつた運動もできず、又醜い傷痕を気にして夏でも長ズボンや靴下を着用していることなどが認められ、骨折及びそれにつづく植皮手術等肉体的に甚しい苦痛を受けると共に子供心にも大きな精神的苦痛を味わつたことが認められる。

〔証拠略〕を総合すると、被告会社に於て本件請求外の分として一応金六四万余円の医療費、付添費用等を支払つていること、被告武元自身も玩具、菓子等を携えて幾度か見舞に赴き誠意を以て慰藉に努めたため原告直之は同被告になつき、原告ら家族に於て同人を加害者として責める気持も幾分うすらいだこともあつたことなどが認められる。

以上の諸事情を考慮すると、原告直之の前記のような苦痛を慰藉するものとしては金八〇万円を以て相当と考えられる。

(ロ)  原告俊秀の損害

(1)  休業補償について

〔証拠略〕によれば、原告俊秀は大工職を本業として一ケ月平均金七万円程の収入を得ているが、副業として菓子、学用品、家庭用金物類等の小売販売を妻富子に経営させていて、本業と合せて原告ら方の一ケ月の収入は金一二、三万円程となること、原告直之の前記入院期間中富子は当初の二〇日間程は泊り込みで、その後の二〇日間程は半日交代で付添看護に当つたこと、が認められる。右〔証拠略〕中には一日の売上高は金一万円程で二割の利益がある旨の供述が見られるが、その営業環境、規模の程度、又は原告ら方では売上を記帳していないこと等から右収益を直ちにとるわけにはいかないが、低目に見て一日金一、五〇〇円程の収益を得ていたものと見ることはできる。そうすれば一日金一、五〇〇円の割合により全休した二〇日の収入金三万円、半休した二〇日の収入金一五、〇〇〇円、合計金四万五、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したものと言うことができる。

(2)  整形手術費用

原告直之が本件事故による右下腿骨開放性骨折後のケロイド形成及び右足関節瘢痕拘縮の整形手術を受けるために昭和四三年八月三日再入院し、同年九月二六日現在既に二回の手術を了え、尚後一回の手術を要することは既に認定したとおりである。

そして〔証拠略〕によれば、これら入院、手術に要する諸費用として金二八万三、九〇〇円が見込まれており、右第三回目の手術が終り退院する際には原告俊秀より右額の費用を支払うべき見込が確実であることが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、右金額は本件事故により原告俊秀に生じた損害ということができる。

(3)  付添費用

原告直之は前記のように事故直後より一五六日間もの長期にわたり入院し、この間を通じて右足骨折のため付添看護を必要としたものと認められるところ、〔証拠略〕によれば、右入院期間一五六日の間、右富子の母である訴外岡田小梅及び訴外尾崎のぶ子に付添看護を依頼し、岡田に対し合計金一五万円、尾崎に対し金六、〇〇〇円(いずれも一日一、〇〇〇円の割合)をそれぞれ付添費用として、原告俊秀より支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。そして右一日当り金一、〇〇〇円の付添費用は〔証拠略〕に照しても相当と認められる。

ところで、〔証拠略〕によれば、昭和四二年六月七日より同年七月三一日までの五五日間は、被告会社の負担に於て、職業付添婦一名を付けていたことが認められる。

そうすると、昭和四二年五月二八日より同年六月六日までの間と、同年八月一日より同年一〇月三〇日までの間の付添費としては、原告主張の割合のとおりの金額を以て損害として差支えないが、被告会社が斡旋した職業付添婦と重複する同年六月七日より同年七月三一日までの分については直ちに原告主張のとおりの割合による金額を損害とすることはできない。

原告直之の症状自体は必らずしも長期にわたり二人以上の付添人を必要とする程重篤であつたとは考えられない。しかしながら、僅か八才の小児の場合職業的付添婦が付けられているからと言つて母親ないしはこれに代る祖母等の付添い看護が全く無用のものとは言えない。分別を弁えた年令ならこれを必要としない場合でも、年端もゆかぬ小児については肉身間の日頃の愛情によつて痒い所へも手の届く心使いのある看護を必要とするものと言えようし、親として職業付添婦のみに愛児の一切の世話を委せてしまえず、自ら付添わずには居られない心情も充分理解することができ、且つその必要性を認めることができるのである。しかし既に一名の付添婦ある以上肉身の看護にその付添婦と同一に評価すべき労務内容があるとは言えないから、半額の一日金五〇〇円とすることが相当と解される。

よつて、本件に於て職業付添婦と重複する前記五五日間の岡田(又は尾崎)に対する付添費支出は、職業付添婦のない場合の半額の割合による金五〇〇円とし、原告主張の金一五万六、〇〇〇円より金五〇〇円の五五日分金二万七、五〇〇円を差引いた金一二万八、五〇〇円を、付添費用の損害とするのが相当である。

(4)  弁護士費用

〔証拠略〕を総合すると、原告俊秀は以上の如き損害賠償請求権を行使するために弁護士岡崎赫生に対し本件訴訟の提起及びその追行を委任し、着手金として金一〇万円を既に支払済みであり、本件判決言渡の後に認容額の一割に当る金額を成功報酬として支払う旨の約定をしていることが認められ、これに反する証拠はない。

そしてこの弁護報酬を除いたその他の損害額の合計は金一三五万七、四〇〇円であるが、これより後記の原告直之の過失割合を相殺すれば金五四万二、九六〇円となるから、その一割に当る成功報酬は金五万四、〇〇〇円である。

四、過失相殺

事故発生に関する前記認定事実よりすれば、北方道路上から本件交差点より西方の県道上の見透しはきかず、狭い道路より広い県道へ出るのであるから、当然原告直之は交差点の手前で一旦停止し、県道上の安全をたしかめるべきである。しかも被告車の進行してくる音響は当然原告直之にも聞えていた筈である。にも拘らずこれらの注意を全く払うこともなく一気に自転車に乗つて交差点に進入したため、被告車の接近に気付いた時には既に間に合わず前述のとおり衝突してしまつたのであるから原告直之に重大な不注意があることは否定し得ない。そして原告直之が当時八才(小学二年生)に達しており、学業成績も普通の出来であることは既に認定したとおりであり、且つ、近時小学校、幼稚園に於ても交通規則の初歩的教育が普及していることは公知の事実であるから、原告直之に県道の交差点へ進出するに当つて一旦停止し左右の安全をたしかめる程度の注意義務を守ることを期待することは無理とは考えられず、これに応ずる能力を有していたものと解することができる。

そうすれば原告直之の右過失は損害の算定に当り考慮すべく、その割合は六割とするを相当とする。

そうすればこの割合によつて過失相殺し、被告らが原告直之に支払うべき額は金三二万円であり、原告俊秀に支払うべき額は左記合計金六一万一、四〇〇円の四割に当る金二四万四、五六〇円である。

休業損失金四五、〇〇〇円、整形手術費金二八三、九〇〇円、付添看護費金一二万八、五〇〇円、弁護士着手金及び報酬金一五四、〇〇〇円、合計金六一万一、四〇〇円

五、結論

以上により被告らは連帯して、原告直之に対して金三二万円原告俊秀に対して金二四万四、五六〇円及びこれらに対する本件事故発生の後の昭和四二年一二月二九日より完済するまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告等の本訴請求はこの限度でこれを正当として認容しうるが、その余の請求はいずれも失当であるから棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林義雄 最首良夫 藤戸憲二)

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